小説 木の芽流し 27

木の芽流し 27

ひょっとしたら美鈴は俺を守ろうとしたのかも知れない。わたしのことは心配ないのよ。お母さんの面倒はわたしが見るから・・あの言葉は俺への拒否では無く、俺が女房を憎む前に距離を取らせようとした配慮かもしれない。

 時間は記憶の積み重ねであるが、機械的にきちんと整理した積み重ねでは無い。優先度合いや印象の強弱によって断片化し、形や大きさが違う多孔質の繊維のような襞に吸い込む。美鈴の記憶は時々思い出す一番手近な襞に塗り込みながら、思い出しては消し、考えては忘れていた俺。

「あれ?雨になりまたよ」

 黒木正夫が窓の外をながら言った。美鈴の記憶を引き出し、その深くを探ろうとしていた俺は現実に戻される。

「雲の動きが早いようですね。天気予報では夕方から雨と言っていたようですが・・」

「奥様か美鈴さんに電話して、会社を辞めないで済むように出来ないものでしょうか?」

 そろそろ引き上げねばならない時間なのだろう。黒木正夫が時計を見ながら言った。

「美鈴の立場は微妙なんですよ。長女が死んでから女房の執着がひどくて・・」

 俺の記憶が過去の時間をまさぐる。子供はいらないと言ってた女房だったが、何を思ったのか一人は産みたいと言い出した。長女が3歳になった時、スペアとしてもう一人産むと言い出した。スペアとしてもう一人と言う発想に驚いたが、女房の本能がスペアの必要を予知していたようだ。

 女房にとって美鈴はあくまでもスペアで、女房の愛情は一心に長女だけだった。同じ腹を痛めながら、どうしてこうも差別が出来るのだろうと不思議であったが、女房は俺の意見はもちろん実母の意見も聞かず、長女優先であったが、考えようによっては夫婦で子供を分け合ったようなもので、女房が長女を育て、俺が美鈴を育てるという分担をしたともいえる。

 女房の教育方針は、全力で長女を最高の女にする。そのために次女に無駄な時間と労力をかけないと言うもので、かわいそうに長女は、幼い時からあらゆる習い事をさせられ、何人もの家庭教師がつけられいつも時間に追われていた。

 たいていのことには眼をつぶって来た俺だが、子育てについては女房と対立し、それがますます女房を意固地にしたのかも知れない。幸い長女が、有名な中学受験に受かって女房と共に東京で暮すことになり、別居生活によって家族は平和になった。俺と美鈴は女房の実家に居候し、美鈴は田舎の子らしく育った。男の子なのか女の子なのかわからないほどに色黒で勉強よりも遊んでる時間が長い。祖母は嘆いたが、俺はそれで良いと思っていた。

 仕事柄、美鈴と一緒に過ごせるのは朝の出勤前と、休日だけであったが美鈴の不満顔を見たことが無い。母親がいない寂しさもあっただろうがその不満を聞いたことも無い。明るく伸び伸びと過ごしていたと思う。女房が長女の遺骨を抱いて帰郷するまでは・・(続く)

(^_-)-☆クウネル日記(^_-)-☆

 最近の天気微妙なのかな?今朝もドジなクウネルでした。配達先を通り過ぎて気づき、3度も引返すと言うドジ(笑)で、天気予報を見ると、雨マークが一日早まっていますね。その影響かな?