雨音   1

雨音はいつも僕を責め立てて、苦しめる。

僕は雨が嫌いだ。

窓に叩きつける音も、滴る雫も。

あの日を思い出させるから。

僕には五歳まで両親がいた。

けれど、六歳の誕生日に母親が事故で死んでから、ずっと父親と一緒にいた。

僕と父親はとても仲が良くて、僕は幸せだった。

十四歳までは。

父親が一回り以上年下の女性を連れてきた。

名前は確かまなみと言って、笑顔が可愛らしい人だった。

僕の方がまなみさんと年が近かったせいもあってか、すぐに僕らは仲良くなってた。

父親と三人で新しい家族になれたと思った。

ただ、僕にとっての母親は一人しかいないから、まなみさんは少しお姉さんという印象で接していた部分もあったかもしれない。

僕らの関係が崩れたのは父親が長期出張に出かけている時だった。

その日はとても雨が強く降っていて、窓にたくさん当たっていた。

何時だったのかは記憶にない。

僕はとても熟睡していて、まるで夢を見ているような気分だったことは覚えている。

僕の体を何かが這っている。

何か、まではまだわかっていなかった。

寝ぼけているせいか目がうまく開けられないし、これはもしかすると夢かもしれない。

だけど、どんどんその何か、は僕の体に強く主張してくる。

ようやくうっすら目を開けた時、目の前にまなみさんがいた。

大声をあげて突き飛ばせばよかったのかもしれない。

「やめて」と言えばよかったのかもしれない。

でも僕は身動き一つとれなかった。

まなみさんの小さな小さな声が聞こえていたから。

「寂しい」

まなみさんはずっとそう言いながら、僕の体を舐めていた。

翌朝、何もなかった顔をして僕の好きなオムレツとツナのホットサンドを出してくれるまなみさんの目は少し窪んでいて、寝ていないような気がした。それから僕は、まなみさんと距離を置くようになった。

父親は何も気づいていなかったけれど、まなみさんは気づいたのかもしれない。

どこかよそよそしく、僕の好きな物をたくさん作るようになっていた。

だけど僕はそんなまなみさんを避け続けた。

結果。

まなみさんは自殺した。

どうして、と思う。

まなみさんには父親がいればいいじゃないか、と。

僕はどうすることが正解だったのか。

何もなかったように笑えばよかった?なぜあんなことをしたのかと言えばよかった?

どうして、まなみさんは死んだんだろう。

どうして、父親を悲しませるんだろう。

僕のせいだったんだろうか。

ずっと、ずっと、考えていた。

僕も父親も自分を責め続けた。

だけど、綺麗に自分の首を縄で絞めていたまなみさんの顔は僕が今まで見た中で一番綺麗で、そんなことを思う自分に嫌悪感が湧き上がっていた。

葬儀などが全部終わった頃、僕は久しぶりに自分のベッドに横になる。

ずっと、父親と一緒にいたから、寝る時も一緒だった。

でもこの日、父親は少し一人になりたいと言っていたから、僕は自分の部屋で眠ることにした。

枕の上に頭を乗せると、何か違和感を感じる。

手を入れると一枚の紙が入っている。

かわいらしい文字を書いていたまなみさんからの手紙だった。

内容はとても簡素で、あの夜起きたことは自分が弱すぎたってこと死ぬのは僕のせいではなく自分が弱すぎたってことが書かれていた。

最後に、自分はとても愛されていたと思っているけど、もっと愛されたいと思う自分が憎くて仕方なかった、と書かれていた。

僕はすぐに手紙を破いて捨てた。

雨が降ってきた。

雨音がまなみさんのことを思い出させる。

僕の体に何かが這う。

本当の愛って、なんだろう。

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