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妄想小話

わたしには好きな人がいる。

それはそれはおモテになるようで、いつも誰かからのお誘いがあった。

わたしはいつもそれをただただ指を咥えて見ているだけだけど、一度だけ好きな人宛のラブレターを処分したことがあった。

それはそれは完全犯罪で、仕事を終えたみたいに額の汗を拭っていたのだけれど。

「ねぇ、ここにあった紙知らない?」

「いや、わからない」

「あ、そう。メモ紙にしようと思ったんだけど」

なんということだと思った。

彼にとってはラブレターはただそこに置いていた紙だった。

わたしにとっては燃え上がる嫉妬の対象として紙を心底目障りに思っていたのに、彼にとってはそれだけのことだと知って、どこか不安になる。

わたしも、そこにあるだけの物体だと思っているのではないか。

彼はいつもラブレターをもらっている様子だった。

だけどラブレターを処分したのはあの日一度きりで、わたしにラブレターが届くことはない。それもそうだと自分で思う。

わたしは彼ばかりを見ていたから、周囲からすればわたしの好きな人はあの人だくらいには理解していただろうし、それを阻害してまでわたしを好きになる人なんて現れるわけもない。

けれど、時々ポケットに紙切れが入っている。

いつ入れられたのかは本当にわからない。

そこには彼からのメッセージがいつもある。

どうして彼からだとわかるかというと、手書きじゃないから。

まるで脅迫文みたいにして新聞の切り抜きを貼り付けているから。

「僕は手紙を書かない。でも、もし書くなら脅迫文みたいにしたいね。誘拐犯みたいな」

彼の口癖。

それに、こんな無駄な作業をわたしのためにしてくれるのも彼しかいない。

彼はわたしが自分を好きだということを知っている。

だけど見て見ぬ振りをしている。

それは、何の為だろうって考えることはしていない。

彼からのメッセージはいつも

【お買い物行こう】

【僕も多分好きだよ】

とかそんな感じだった。

多分好きってなんだろうと思いながら、一緒にお買い物に行くとさらりと手を繋いできたりする。

だけど、それ以上はない。

彼の中でラインがあるらしかった。

そのラインがなんなのか、わたしは教えてもらっていない。

それでいいと思っていた。

彼がわたしの前をわたしを見ずに通り過ぎたりしなければ、それでいいと思っていた。

だけどある日、わたしにラブレターが届いた。

彼がポケットに入れてくるメッセージとはまるで違う温度感。

なのに、その温度はわたしの体に侵食してくることなく、目の前でただの紙になった。

ああ、こういう感覚なのかとわたしは理解する。

「なに、ラブレター?」

ふと真後ろから声が聞こえた。

彼はわたしの答えを聞かずにスカートの中に手を入れて、太ももの内側を強くつねる。

「痛い」

「本当に?」

「痛い」

「やめて欲しい?」

「…やめないで」

彼はわたしの太ももを強くつねりながら、わたしにラブレターを声に出して読みなさいと言ってきた。

わたしは抵抗することもなく、ラブレターを朗読する。

まるで他人事みたいな文章がおかしかった。

「手の掛かる子だね」

彼は一言そう言って、わたしから離れて行った。

わたしは言葉の真意を予測することもできないまま、帰宅してスカートの中に手を入れる。

彼がつねった部分に指を這わせ、ゆっくりとスカートを捲った。

真っ赤になっている部分と少し青くなっている部分があって、どちらも触れると痺れるほど痛かったけど、彼の指を思うと何とも言えない気分になっていた。

スカートをまた少し捲るとポケットに何か違和感がある。

見るとメモが入っていた。

珍しく手書きで英文で書かれているその言葉をわたしはすぐに理解できないことが悔しかった。

すぐに翻訳をしてみると、

【僕をつかまえていて】

という意味だった。

わたしの頬はもう、溶け落ちそうに赤くなって、彼はすごい男性だと思い知らされた。